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2019年 07月 16日 ( 1 )

(2019年7月13日の続きです)

「万葉集天の川伝説」の後半は、日本の七夕祭/かささぎ物語/万葉集・天の川考/天の川・万葉白文、 の4章ですが、中心を成すのは「万葉集・天の川考」で、万葉集4516首のうち七夕の歌132首、なかでも天の川を詠った47首から10首、七夕(ナヌカノヨヒ)・織女(タナハタ)を詠った3首を取り上げて解説を加えています。

「天の川・万葉白文」の章では、天の川を詠った47首のうち「天漢」と表記した33首を紹介しています。 その中から2首。

● 天の川 渡瀬深み 船浮けて 漕ぎ来る君が 楫の音聞ゆ (あまのかわ わたりせふかみ ふねうけて こぎくるきみが かぢのときこゆ)

● 天の原 振り放け見れば 天の川 霧立ち渡る 君は来ぬらし (あまのはら ふりさけみれば あまのかわ きりたちわたる きみはきぬらし)

2首ともに「天の川」は「天漢」と表記されています。牽牛が織姫のもとに通う歌ですが、これは万葉の時代の婚姻形態「妻問婚」を反映しています。

また、天の川に川霧が立つことは牽牛の出航の合図で、他の七夕の歌にも詠われています。

なお、「漢」の一字だけで「天の川」と詠んでいる歌もあります。

● ひさかたの 天の川瀬に 船浮けて 今夜か君が 我がり来まさむ  (作:山上憶良/724年7月7日の夜に左大臣・長屋王の邸宅にて作る。当時、憶良64歳、この2年後に筑前守に任ぜられ大宰府に赴きます。)


さて、次はラフカディオ・ハーン(1850-1904)の「天の川幻想」です。

本書は、ハーンの死後1905年にアメリカの出版社から刊行された短篇集「天の川縁起-その他」を中心に、「怪談」に収録されている「蟲の研究」のなかから「蚊」、ハーンの死後海外向けに英文で刊行された「日本お伽話」のなかから5篇、それに「天の川縁起-その他」がアメリカで刊行されたときの「序文」とハーンの妻・小泉セツによる「思い出の記」の2篇が加えられた構成になっています。


「天の川縁起-その他」からはそれぞれ趣きの異なる短篇が6篇訳出されています。表題作の「天の川縁起」、鏡の乙女/妖怪の歌/日本からの手紙/伊藤則資の物語/究極問題、です。怪妖変化、異世界、日露戦争当時の世相風俗の記録、霊魂の哲学的考察などです。

収録作品はすべて海外読者を対象にして英文で発表されていますので、当然のことながら本書を出版するに当たり、英語を日本語に訳するわけですが、編集段階で「万葉集の天の川または七夕の歌」はあえて英文のままとして残し、掲載しています。

「妖怪の歌」は江戸時代の「狂歌百物語」に収められた妖怪変化にまつわる狂歌を英文で発表したもので、この狂歌の部分も英文のまま残して本書に収録されています。


歌の部分を英語で残して日本語の歌と対比させる、という面編集方針が本書の大きな特徴となっています。対比することにより、歌の解釈の幅が広がり、さまざまにイメージを膨らませることができるような気がします。

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装画・装丁/木幡朋介 ↑ 装画はレオポルド・トラッティンニック『植物宝典』の<夕顔>の花をアレンジした、とあります。

夕顔の「つる」を伝わって天上界へ登るという伝説に因んで描いたものと思いますが、織姫の異名のひとつに「朝顔姫」があることを書き添えておきます。「朝顔」の別名を「牽牛花」と呼ぶことから転じたもののようです。


表題作「天の川縁起」は、「たなばた」の起源から説き、平安宮中での宮廷祭事としての七夕祭の様子を細部にわたって丁寧に説明し、ときおり出雲地方の七夕行事を交えながら江戸時代に於ける庶民の七夕祭の隆盛を語っています。


七夕の行事としての解説に次いで、「万葉集」の文芸的水準の高さ・詩情の豊かさに言及し、なかでも山上憶良の歌は古代ギリシアの「哀悼詩(エピグラム)」に匹敵する素晴らしい詩歌だと絶賛しています。(読者を英語圏の人々に設定しているために古代ギリシアの詩歌を引き合いに出したのだろう)

本書ではハーンが訳した七夕の歌41首が紹介されています。そのなかから3首。

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また、「妖怪の歌」のなかから「雪女」を詠んだ狂歌を1首。

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ハーンは怪奇物語として短い言葉で巧みに英文に纏めています。しかし、狂歌は日本の風俗習慣、民間伝承や迷信、日本の小説や芝居などをある程度理解していなければ、その面白みがなかなか読者である英語圏の人々に伝わらないと思うのですが、はたして英語圏読者はどこまでこの面白みを理解したのでしょうか。



《万葉集天の川伝説 中国・老河口紀行》
魚住孝義著/1992年8月7日 初版第1刷
花伝社発行/共栄書房発売


《天の川幻想-ラフカディオ・ハーン 珠玉の絶唱》
小泉八雲著/船木裕訳
1994年7月10日 第1刷/株式会社集英社発行