2011年 06月 02日 ( 1 )

「望遠鏡を見に行かないか?」月曜日の朝、かおを合わすなりオットーは云いました。・・・その前の土曜日の晩、われわれのハーヴァード氏の塔に輝やかな豆電灯が点ったのですが、日曜は余所へ出かけたので、私は彼とは逢わなかったのでした。

「どこなんだ」「A山だ・・・Eっていう人がこんどロンドンから買って帰ったんだ。A山に円屋根を作ったんだよ。」

「へーえ、・・・ハンドルもついているの?」「むろん! ぼく土星を見たよ。これっぱかしだ。」とオットーは、親ゆびと人差指とを曲げて小さい輪をこしらえました。

「どんな色をしていた?」「黄いろと紫がいっしょになったような・・・」「環も見えたかい?」「ああハッキリ・・・輪が一段と薄くなっている部分から、土星の本体がすいて見えるところなんか、きみに見せたら何というか知れないよ」
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「そら!」と彼は晴れやかな声で注意しました。
「あそこなんだよ・・道はうしろの方から登るのだ」

指し示されたこの辻の左向う、銀梨子地の星空の下に、そこを半円形に区切っているポプラらしいものが生えた丘と、そのてっぺんに載っかっている、オットーの服の色と同じ緑色の灯影が洩れた円屋根の影とが透かされました。(稲垣足穂/天体嗜好症 より)
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