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宇宙旅行/光川ひさし著 昭和15年

『小学校五年生のとき東日天文館の売店で『宇宙旅行』という本を買った。宇宙船に乗って太陽系から銀河のかなたまで旅行する物語で、子どもが読めるやさしい書き方をしているが、中身は最新の知識がつまっている。 その著者光川ひさしこそ水野良平氏のペンネームであることを知っていたのだ。』 (ぷらべん 88歳の星空案内人 河原郁夫/冨岡一成著/旬報社発行/2018年刊)より

拙ブログの2019年2月21で「ぷらべん(https://irukaboshi.exblog.jp/d2019-02-21/)」を取り上げましたが、その中の一節です。本日の『宇宙旅行』については、そのすべてを上記引用で表していると思いますが、それでは本日のブログが続きませんので、ちょっと捕捉をさせて頂きます。

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「ぷらべん」こと河原郁夫氏の生涯の師「水野良平」は、明治32年(1899)横須賀生まれ。東京物理学校(のちの東京理科大学)を卒業後、東京天文台に奉職。

大正12年(1923)~昭和25年(1950)までの在職中、保時・報時の部門に属して時刻観測に従事。 天文台退任後、横須賀市の私立横須賀学院の教員を経て、昭和31年(1956)天文博物館五藤プラネタリウムの学芸課長となっています。昭和53年(1978)逝去。

さて、その「宇宙旅行」の件、発行は昭和15年(1940)で誠文堂新光社から刊行されています。
「僕らの科学文庫」というシリーズの中の1冊で、「宇宙旅行」が刊行された時点での既刊は、次のとおり。


化石の世界-早川一郎著/火と焔-白井俊明著/原子の話-鳩山道夫著/僕らの栄養と食物-川島四郎著/僕らの海-野満隆治著/僕らの船-関谷健哉著/僕らの飛行機-山崎好雄著/算術と数学の歴史-吉岡修一郎著/飛行機の話-山﨑好雄著/ちから-作井誠太著/ひかり-二神哲五郎著の11冊で、「宇宙旅行」を入れて全12冊が既刊。


続巻として、音の世界-田口泖三郎/植物の話-篠遠喜人/僕らの理科実験-藤木源吾/命-永久正志/動物の話-丘英通/家の話-星野昌一、などが予定されていたようです。


「宇宙旅行」は、昭和14年4月から翌年3月にかけて「小学生の科学」に『宇宙見学旅行』と題して連載されたもので、単行本化にあたって大幅に加筆されています。

初版は昭和15年、翌年に修正第5刷が発行され、さらには昭和23年に上・下に分かれて同じ書名で発行されています。

(昭和23年版は7月20日印刷/8月1日発行/上巻・下巻の表示はありませんが、2分冊で刊行されています。 章立てと文章は同じですが、一部の図版を入替または追加をしています。定価百円)

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宇宙船に乗りこむ少年少女たち。


本書全17章は以下のとおり。


● 第一章 月世界の探検

● 第二章 太陽の巻

● 第三章 内惑星の巻

● 第四章 火星の巻

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ローウェルの描いた火星 ↑

● 第五章 小惑星の巻

● 第六章 木星の巻

● 第七章 土星の巻

● 第八章 彗星の巻

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ローマ皇帝カエサル時代に出現した彗星 カエサルとその后が彗星を見て心配をしている場面/右側の図は流星群の説明図で、校庭を周回する生徒たちの中に一塊の群れが出来ている。

● 第九章 天・海・冥の三王星

● 第十章 近距離の恒星

● 第十一章 変わった恒星の色々

● 第十二章 ガス星雲と散開星団

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東京天文台の大望遠鏡 ↑

● 第十三章 銀河と球状星団の巻

● 第十四章 渦状星雲の巻

● 第十五章 宇宙に対する昔の考へと今の考へ

● 第十六章 四次元世界の話

● 第十七章 地球帰還


パイロット光川ひさしが操縦するロケットで太陽系の各惑星を巡り、銀河系の外までを旅する、という設定です。

本書は子ども向けに書かれたものですが、安易な内容に終始しているわけではなく、当時の最新の知見を持って記述されています。

・・・とは言え、「彗星の頭は星の集り」などという部分は、ホイップルの「彗星頭部は汚れた雪玉」説提唱が本書刊行の10年後(1950年)ですので、仕方のないことと思われます。


また、火星の生物については、動物はいないが「植物は生えている」と断言しています。 戦前から戦後しばらくのあいだの天文書を見る場合、火星生物の扱いがどのようになっているか興味深いところです。

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目次の一部  ↑

先に「本書は子ども向け」と書きましたが、第十四章でハッブルの「膨張宇宙説」を詳述していたり、続く第十五章(天文学史)でも膨張宇宙についての解説やアインシュタインの相対性原理についてに話しが及んでいるように、決して子どもだけの本ではありません。宇宙論、天体物理なども入って大人でも充分に楽しめる天文の本になっています。


光川ひさし名義の天文書は1940年発行の「宇宙旅行」だけのようですが、水野良平での著作は以下の通り。


● 宇宙旅行/光川ひさし/誠文堂新光社/1940年/A5変形

● 宇宙旅行 (二分冊)/誠文堂新光社/1948年/A5変形 /上巻(第一章~第九章)は179ページ/下巻(第十章~第十七章)は168ページ

● プラネタリウムの話/四季の星座/恒星社厚生閣/1957年/A5判

● 最新天体写真集/法政大学出版局/1958年/A5判

● ベツレヘムの星/新教出版社/1959年/B6判

● 時・暦・プラネタリウム/ポプラ社/1963年/B5判

● 星と伝説 目で見る児童百科3/偕成社/1963年/B5判

● 宇宙の謎/大陸書房/1969年/B6判

● うずまく宇宙/正進社/1969年/新書版

● 星とともに/私家版/1969年/A5判


単行本の刊行は以上ですが、雑誌類への寄稿はたくさんあります。また、光川ひさしのペンネームで創作童話などがあります。(刊行の天文書は多分上記の通りと思いますが、筆者(ブログ主)のわかる範囲だけですので、まだあるかもわかりません。)

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宇宙船出発の口絵: 画者は鈴木登良治のはずですが、サインがよく読めません。辛うじてT.Suzuki となっているようですが。
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『宇宙旅行』

著者: 光川久(みつかわひさし)
印刷: 昭和十五年六月二十五日
第一刷発行: 昭和十五年七月一日
修正第五刷発行: 昭和十六年十一月二十五日
発行所: 誠文堂新光社
発行者: 小川菊松
印刷者: 小坂孟
製本: 村田文泉閣
16×19センチ(本体)/356ページ/定価二円

装幀と本扉: 初山滋
挿絵: 鈴木登良治

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『宇宙旅行』の箱裏面と本体裏面


by iruka-boshi | 2019-02-27 19:19 | 星の本・資料/星空 | Comments(0)