食用のハナニラ/古事記の「かみら」 2016年9月10日
小学館の「日本古典文学全集」の現代語訳では「かみら」は「臭韮」の字が当てられ『カは臭気の意の接頭語。ミラは韮(ニラ)の古名。』と注釈されています。
「かみら」の語の前後を上記の全集より転記すると次のとおりです。
『久米の子等が 粟生には 臭韮一本 そねが本 そね芽つなぎて 撃ちてし止まむ』
口語訳:「久米部の者たちの粟畑には、においの強いニラが一本生えている。その根と芽を一緒に引き抜くように(敵を一人も残さず)数珠つなぎに捕らえて、撃たずにおくものか。」
「イワレヒコノミコト」と先住の土着民(土蜘蛛)「ナガスネビコ」との戦いの場面で、ミコトが発した言葉です。
「ナガスネビコ」は、かつてミコトの兄の「イツセノミコト」を死に至らしめています。そのこともあってか、強い敵意を持った言葉となっています。しかし、なぜここで敵をニラにたとえているのか。他の草々ではダメなのか。
ここからは筆者の単なる妄想ですが、敵→ニラの例えは第一にその独特の臭気にあるように思えます。次にニラのしつこいとも言えるほどの強靭さにあるのではないでしょうか。
筆者の実家に狭いながらもニラ畑があります。5月頃から収獲を初めて9月中旬まで、ひとつの株から8回ほど収穫できます。天候にもよりますが、根を残して切り取られた株は、2週間程度でもとの大きさに成長することになります。成長が早いだけでなく、暑さにも強いようです。
下の画像は、我が家の庭の片隅に毎年勝手に生えてくるニラですが、今夏の猛暑と雨不足で庭の草木が枯れてゆく中、このニラは、ご覧のように青々とし、時節とおりに花茎を伸ばしています。
元々、この場所にニラを植えたわけではなく、庭に土を入れた際、ニラのタネか根が混ざっていたものと思われます。
また、田舎道を歩いていると、使われなくなった畑の隅や畦道でニラの群生に出会うことがあります。施肥などの手入れをしているわけでもないのに、毎年同じ場所で生き生きと繁茂しています。
ニラの強い生命力を感じますが、このニラが『古事記』に記すように大事な粟畑に生えている。イワレヒコノミコトは大いに癪に障ったことでしょう。
さて、タイトルのハナニラの件、あえて「食用のハナニラ」としたのは非食用(観賞用)のハナニラがあるためです。非食用ハナニラについては、拙ブログの2013年3月30日に載せていますので、ご高覧頂ければ幸いです。
ニラの花はお盆ころからポツポツと咲き始めますが、食べごろの蕾が最盛となるのは9月上旬~中旬です。食べ方はニラの葉とおなじです。しかし、ハナニラならではのレシピもあることと思います。いずれにしても花になる前の蕾の時がよいと思います。
ニラ畑ではなく、田んぼの土手に群れ咲くニラの花。 ↓ 捨てられた土から芽を出し、旺盛な繁殖力で群れを作ったようです。
白い花の中央に小さな緑の実が見えています。 ↑ これから10月にかけて徐々に実が熟して行きます。
10月下旬、実は弾け、黒いタネが数粒みえています。タネの大きさは1ミリ前後、ひとつの実に3~5粒はいっています。
タネは「韮子(きゅうし)」と呼ばれて生薬として用いられるそうです。
ニラは、葉はもちろんのこと、茎も花もタネもニラの味がします。食べたことはありませんが、多分、根もニラの葉と同じ味がするのではないでしょうか。