ジョン・ヒルの星座

イギリスの植物学者・園芸家・小説家のジョン・ヒルは生涯に76冊の書物を著していますが、そのなかのひとつに1754年に発刊した「Urania: A Compleat View of the Heavens; containing the Ancient and Modern Astronomy, in form of a Dictionary」という天文書があります。(1768年に少し題名を変えて再出版)

この「Urania」に彼自身が創作した13の星座が載っています。下図は「Sky&Telescope1983 April」に掲載された13星座のひとつ「Bufo」です。

位置は「てんびん座」の下、「さそり座」の右で、現在の星座区分では天秤座の一部から狼座の境い目あたりになります。
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「Bufo」の英語名は「Toad 」でヒキガエルですが、これには「いやなヤツ」という意味もあるとのこと。この「いやなヤツ」に負けず劣らずジョン・ヒルが作った星座には「クモ座」「ミミズ座」「ナメクジ座」「水蛭座」などの星座としてはどうかな、と思えるものがズラリと並んでいます。

ジョン・ヒルは1716年にイングランド中東部の町ピーターバラで生まれといわれています。若い頃に薬屋に弟子入りし、年季明け後独立してウェストミンスターのセントマーチン通りに小さな薬局を構えました。

前後して植物学を修め、さらに造園・園芸術も習得してリッチモンド公爵やペトレ卿の求めに応じて庭園作りや珍奇な植物の蒐集にあたるようになります。のちにロンドンのキュー王立植物園の責任者にも任じられました。また、セントアンドリュース大学から医学の学位を取得した医師でもありました。

彼の著作の多くは植物学や薬草・造園・園芸に関する本、鉱物・化石・昆虫などの自然誌関係書、あるいは医学・薬学・健康に関する本ですが、演劇に関する本やさらには小説なども手がけています。

しかし彼の文章は下品で痛烈な風刺を含んでいるとして、作家ヘンリー・フィールディングや詩人クリストファー・スマート、画家ホガース、ロンドン演劇界の名優ディヴィッド・ギャリックらと激しい論争を引き起こしています。

彼の天文書は「Urania」が唯一のようですが、そのなかであえて「いやなヤツ」を登場させたのは既存の天文界(天文学会や天文学者)に対するアテツケのように思われます。

1603年にヨハン・バイエルが「ふうちょう座」「カメレオン座」など12の星座を新たに創って以来、ロワーエやヘヴェリウスらが次々と星座を『勝手に』新設し、さらにジョンヒルと同時代のフランスの天文学者シャルル・ルモニエ(1715-1799)が「トナカイ座」や「ツグミ座」を創ろうとするに至って、それならばこれはどうだ、と言わんばかりに創り上げたのが「ジョン・ヒルの13星座」、という気がしてなりません。

下図は「ふたご座」と「やまねこ座」のあいだに設けられた「Uranoscopus」と呼ばれる魚の星座、それに「ふたご座」の肩のあたりで「かに座」「こいぬ座」は挟まれた「Lumbricus」、つまり「みみず座」です。
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「Uranoscopus」は英語名では「Star-Gazer fish」となっていますので、直訳すると「星を見る人の魚」、日本語の魚名ではよく分かりませんが、「オコゼ」でしょうか。星を見る人とは天文学者を指しているようですが、なにゆえこの魚が「Star-Gazer」でなにゆえこの魚の星座を創ったのか。

Sky&Telescopeの説明によると「Star-Gazer fish」は普段、海底の砂や泥に身を隠し、眼と口だけ出して常に上を見上げて獲物を待ち構えているから、とのこと。
これはもうほとんど天文家に対する皮肉でしょうね。Star-Gazerには夢想家という意味もあるようです。

つづきます。
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by iruka-boshi | 2012-09-17 19:08 | 星の本・資料 | Comments(0)