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プロレタリア作家葉山嘉樹と現代 みやこ町豊津公民館(その2)

最後に登壇の楜沢健氏は冒頭、今年文化勲章を受賞した丸谷才一氏の受賞後の言葉を引用しつつ、葉山の言葉「馬鹿にはされるが 真実を語るものが もっと多くなるといい」を紹介。

次いで先ごろ話題となった「蟹工船」ブームに言及、平成20年の一年間だけで80万部も売れるに至った背景を「蟹工船」発表当時と現在の社会状況とで比較論説。

続いて「セメント樽の中の手紙」をテキストに「偶然」をキーワードとして嘉樹の小説の成り立ちを解説。

セメント樽の中に入れられた宛名のない手紙を「偶然」に松戸与三が手にする。そこから始まる物語の展開。樽に入れられていたのは「ビラ」ではなく、なぜ「手紙」だったのか。書き手はセメントを入れる袋を縫う女工。

女工は自身の住所と名前を記し、返事を乞う。松戸与三は返事を出したのか。・・・、「セメント樽の中の手紙」の解説の後、「移動する村落」の小説構成に移ったのですが、ここでも「偶然」がキーワード。

「セメント樽の中の手紙」「移動する村落」に加えて「淫売婦」「海に生くる人々」の作品解説は下の画像の左側「だからプロレタリア文学」楜沢健著に掲載されていますので、ここで拙ブログが述べるよりもこの本を手に取って実際にご覧頂いたほうが分かりやすいと思います。因みに「淫売婦」を読み解く鍵も「偶然」。
プロレタリア作家葉山嘉樹と現代 みやこ町豊津公民館(その2)_d0163575_21271946.jpg

講演会は13時にはじまり終了は16時丁度。葉山民樹氏は父の姿を淡々と語り、楜沢健氏は1時間30分に亘って熱弁をふるい、示唆に富んだ言葉の数々で葉山嘉樹を再認識させてくれました。

また、民樹氏は嘉樹の愛読書だったニコライ・ゴーゴリの「死せる魂」に添えられたシャガールの挿絵を嘉樹の死後に見る機会があり、「この挿絵を父に見せたかった」と繰り返し語っていたことがとても印象的でした。

なお、今回の講演の講演録は来年(2012年)1月に刊行予定の「プロレタリア作家葉山嘉樹と現代」(花乱社/福岡市)に収録されるそうです。

また、講演会の来賓としてプロレタリア作家・里村欣三の顕彰会の方、同じくプロレタリア作家・徳永直の顕彰会の方、日本社会文学会の理事の方もお見えになっていたことを付記します。


「だからプロレタリア文学」/楜沢健著/勉誠出版
収録作品は、宮本百合子「貧しき人々の群」/宮地嘉六「放浪者富蔵」/小川未明「空中の芸当」/葉山嘉樹「淫売婦」「セメント樽の中の手紙」「海に生くる人々」「移動する村落」

若杉鳥子「棄てる金」/黒島伝治「橇」/中野重治「交番前」/佐多稲子「女店員とストライキ」/林芙美子「放浪記」/小林多喜二「蟹工船」「テガミ」/徳永直「太陽のない街」/伊藤永之介「濁り酒」/鶴彬・プロレタリア川柳

「葉山嘉樹への旅」/原健一著/かもがわ出版
文学碑が取り持つ縁/父が生きた時代/同世代の人々/「海に生くる人々」を訪ねて/葉山嘉樹と「偽満州国」/祖国ノ難関ニ赴キタシ/参考資料/あとがき
by iruka-boshi | 2011-11-07 21:28 | Comments(0)