気象天文の図鑑 学習図鑑シリーズ⑥/小学館(その2)
天文編が若干多いのは本文ページに入る前に月面着陸や宇宙ステーションの想像図などに6ページを割いているため。
図鑑を開いて最初に眼に入るこの部分は重要なページで、ここの出来栄えで本文ページへ進むか別の本を手に取るか決まる、と言ってもよいくらいのものでしょう。
この図鑑の場合、気象編も天文編も共にインパクトある題材を取り上げていて、それを印象的に描き挙げています。
天文編の月世界や火星探査の図、気象編の「ジェット・ストリーム」の説明図など次々に現れる未知の世界に魅了されて、本文ページへ進んだ読者諸氏は多かったことだろう、と想像します。
「未来の宇宙ステーション」
昭和30年代40年代の宇宙ステーション想像図はたいていドーナツ型に描かれているという印象が強いのですが、ここでの宇宙ステーションは球形です。
宇宙ステーションを単純な形に描くことにより、手前の画面いっぱいに広がる宇宙往還機が強調され、迫力ある絵に仕上がったように思えます。絵の端にサインがあるのですが、よく読めません。「章作」と書いているように見えますので「中島章作」氏でしょうか。
「気象天文の図鑑」は昭和30年の初版以後、途中の改訂を挟んで十数年に亘って版を重ねたロングセラーです。
この間、さまざまな新知見や学説が現れていますので、それがどのような形で図鑑に取り入れられたかは、「火星」の項を見るのが最も手早く、また興味のあるところです。
右ページの縦に並んだ4つの火星図は、上から1832年ベーア・メドラーのスケッチ、1858年セッキのスケッチ、1864年ドーズのスケッチ、1873年グリーンのスケッチ。
グリーンの右側は1879年スキアパレリのスケッチ、その横は1892年キャンベルのスケッチ。
「・・・現在わかっていることは、大気はあるけれどもうすく赤茶けたところはさばくで、緑色のところは植物地帯だということです。」と記され、ついで運河に触れて、存在は確認されたが人工物ではない、としています。
このことは、解説ページでも取り上げられ、「(ローウェルらの)説には100%の信用をおけません」として、さすがに火星人運河説は否定されています。
植物については存在を肯定する書き方になっていますが、高等植物説は影をひそめて下等植物存在に変わっています。
解説ページでは、「緑色地帯のスペクトルをしらべてみますと、ある種のコケや地衣類のスペクトルににています。・・・火星は地球よりも寒く、水不足なので、こんな植物なら生きていられます。」としながらも、「おことわりしておきますが、火星にはこんな植物があるというのではありません。緑色部の様子が、こんな植物ににていることをつきとめただけなのです。」と記して断定を避けています。
このように学説の定まらないものについては幾つかの説を併記して読者に問題提起をし、考えてみることを促している箇所がほかにも見られます。
「太陽系のできかた」のページなどにそれらを見ることができますが、「ほうき星といんせき」のところでも彗星の起源や流星の起源に触れて幾つかの説を挙げています。
また、著者自身の考えとして、
「・・・流星を起こす粒子には、岩のかけらと鉄のかけらがあることがわかりますが、私はそのほかに、氷のかたまりもあると考えています。・・・1860年インドのズルムサラに落ちたいんせきは氷につつまれていたことが報告されています。」と記し、読者へさらなる考えを提起しています。
気象天文の図鑑 小学館の学習図鑑シリーズ⑥
著者:鈴木敬信/荒川秀俊/巻島三郎/大滝正介
発行所:小学館
発行日:昭和三十一年六月一日 初版発行
昭和三十八年三月十五日 十四版発行
昭和三十九年三月一日 改訂新版発行
昭和四十四年一月十日 改訂十三版発行
19×26.5cm/173ページ/函付き
定価:350円