不思議な天地
「果もない宇宙の海」から「美しい霜の花と霜柱」まで全部で72の項目に分かれていて、主に宇宙・火山・海・気象のさまざまな現象の成り立ちを少年少女の皆さんに易しく解き明かしています。
目次から少し抜き書きすると、「狂い廻る火の玉」でカントやラプラスの「星雲説」を紹介し、「一日多くなったり少なくなったり」では、マゼランの航海日誌を取り上げて日付変更線の説明をし、「悲惨極まる火山の破裂」で江戸時代の天明3年の浅間山噴火の甚大な被害を記し、「風はどうして起こるか」では低気圧発生の仕組みを説明している、という具合です。
しかし、最も面白く、しかも突っ込みを入れやすいところは、「月の世界に木が生えている」や「人が住んでいると云われている火星」「月の世界がまだ活動している」などの項目です。
ちょっと引用が長くなりますが、「(月の世界には)生物が居ないと云う議論をひっくり返す様な事実が、極く最近に起こってきました。それは、月の表面には、広い広い潅木の林がいくらもあると云う事実なのです。そしてその発見者は、米国天文学者でハーバード大学の先生をして居られるウイリアム、ヘンリー、ピッカーリング氏です。(中略)今望遠鏡を覗くと、月の表のあちらこちらに、広く大きい潅木の林が沢山あるのがよく見られるそうです。(後略)」
さらには「月の世界がまだ活動している」では、「月の世界に生物がいないと云う事は、殆ど百年前から信じられていたのに、潅木の林がある等云う事が見出されて、今まで考えられていたお月様が、全く変わって来ました」と追い討ちをかけ、それだけではなく「同じくピッカーリング氏によって発見せられた事実で月の世界に活火山があると云うのです。(中略)そしてそれ等の噴火口からは、白い雲のようなものを吐いていると云います。」とまで書いています。たしかにそれらの「発見」事件があったようですが、著者はこの本ではけっして否定していないところがいいです。肯定の一歩手前、という書きぶりです。
少年理科叢書 不思議な天地
著者:井田静夫
発行所:弘文社
発行日:昭和三年二月十五日
印刷日:昭和三年二月十日
定価:五十銭
13.5×19.5cm/227ページ
(この稿、続きます。多分。)