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(7月22日の続きです)

海洋の部も天文・気象の部と同様、図版を多用して記述内容に膨らみを持たせるようになっています。

しかも話し言葉で書かれていますので、分かりやすく親しみを持って読み進むことができます。ページ数は天文・海洋・気象のなかで一番少なく60ページあまりですが、基本的なことはすべて書かれています。章立ては、「第1章 海の形と性質」、「第2章 海の富と冒険」 の二つのみです。

第1章は船に乗り込んで実際に港から沖へ出てみるという設定のもと、港には防波堤灯台を始めいろいろな標識があることや沖では大きな波があることなどを説明しています。つづいて、潜水服を着て海中に入り、水の圧力を体験しつつ、海の中にはさまざまな生き物がいることを学びます。

次に海の深さを測る方法や海流のこと、満潮干潮のこと、海水が塩からいわけ、波が起こるわけ、などが書かれています。海流の説明部分では小学生低学年にはちょっと馴染みにくいかもわかりませんが、小学上学年・中学生以上大人まで興味深く読むことが出来ると思います。

各章の終わりや項目の終わりに「研究問題」という欄があるのは天文部門・気象部門同様です。
第一章では、「水槽を準備して波の実験をやってみましょう」や「船が激しく揺れる時、積み荷をできるだけ下に移しますが、なぜですか」など五つの設問・実験のすすめが載っています。

第2章は、漁業、海の怪物伝説、漂流・探検、海の事故・航路標識、について書かれています。
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第2章 海の富と冒険「魚のとりかた」より ↑ 右ページ上、「カモメは魚群の上をとぶことが多いので漁師達はいつも鳥の行方をさがしています。」の説明。下は「電燈をつかう集魚燈の装置」です。左ページは上から「はえなわ」「曳き網」「すくい網(和歌山の白魚とり)」。

この章の「研究問題」のひとつに「季節によって獲れる魚の種類が違います。どの季節にどんな魚が獲れるか調べましょう」というのがあって、調べ方の方法として「魚屋さんの店先」「社会科の教科書」をあげ、最も良いのが「新聞やラジオの配給だよりです」、とありました。この本が出版された昭和25年はまだ配給があったんですね。

この海洋の部ではさまざまな魚の獲り方が書かれていますが「魚群探知機」については全く触れられていません。魚群探知機は昭和23年に合資会社古野電気工業所が世界最初の実用化に成功しているものの、一般化されていなかったことがよくわかります。昭和31年に本多電子株会社が世界初のトランジスタポータブル魚群探知機を開発したのち、徐々に普及していったようです。・・・本題からちょっと外れましたが。
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遠洋漁業の項目より ↑ 右ページ上、トロール船と底引き網、下の2枚は缶詰工場の様子です。
左は「鯨の子のお乳のすいかた」、普通のさかなはお乳なんか飲みませんよ、とわざわざ書かれています。中の写真は捕鯨母船、その下は「母船に引き上げられる鯨」です。

この項目では「キャッチャーボートと母船の働き」「鯨の種類」など割合くわしく書かれています。戦後の食糧難の時代、捕鯨は大きく期待されていたことがわかるようです。
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第2章 海の富と冒険「海の守り-灯台の火」より ↑ 右ページ上、浮標2種類、下、拄燈浮標(神奈川県本牧)と燈竿。燈竿は上げ下ろしができるそうです。

左ページ、「灯台の内部」、螺旋階段が見えています。「障害物浮標のいろいろ」、一番下は「灯台と台員の家」で、灯台の機能を維持する苦労も書かれています。この灯台の項目も写真・図版を多用して8ページに亘って詳述されています。

続きます。
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玉川学園出版部(現・玉川大学出版部)が昭和7年から12年にかけて逐次刊行した百科事典に「児童百科大辞典」というのがあります。

この百科事典は日本で最初の児童用の百科事典で、児童用とはいうものの、第1巻動物篇(動物界概観/脊椎動物)に始まり、第2巻(無脊椎動物/動物総論)、第3巻植物篇(植物界概観/顕花植物/応用植物)、第4巻植物篇(隠花植物/植物通論/生物学問題)、第5巻生理衛生篇、第6巻物理篇、等々を経て、第30巻哲学宗教篇で完結するという本格的なものでした。

この百科事典以前にも児童を対象としたテーマ別の類書はありましたが、自然科学・人文科学・社会科学全般を網羅し、体系的に編纂された百科事典は「児童百科大辞典」が初めてで、それまでの児童向け啓蒙書的な同類書物と比べて森羅万象を収めた堂々たるラインナップの百科事典だったといえます。

戦後、社会の落ち着きとともに児童用の図鑑や百科事典が次々に刊行されるようになりますが、そのさきがけとなった百科事典が上記の「児童百科大辞典」の流れを汲む「玉川児童百科大辞典」で、昭和25年から各巻逐次刊行されて行きました。

「玉川児童百科大辞典」は、「児童百科大辞典」と同じく全30巻で、そのうち20巻が学習基礎篇、残り10巻が学習実際篇となっています。

学習基礎篇20巻の打ち分けは、「理科全6巻/文科全6巻/社会科全8巻」、学習実際篇10巻は、「理科全4巻/文科全6巻」です。
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学習基礎篇は例えば理科では動物、植物、物理、地質・鉱物・化学、など、文科は日本美術、西洋美術、日本史、世界史、など、社会科は政治・法律、経済・教育、などです。

学習実際篇は、同じ理科や文科であってもさらに細分化されていて、数学の発達・算術と代数・幾何、などの「算数学習の実際」、スポーツ・生理・衛生などの「体育の実際」、音楽の鑑賞・楽譜・作曲・指揮法・歌い方などの「音楽の実技」等々で、ほかには「理化の実験」「英語学習の実際」など全10巻で構成されています。

さて、本日の「玉川児童百科大辞典 4 理科(四) 天文・気象・海洋」ですが、本書の巻末に一応の対象者として「小学生上級・中学生のための」とあるように、文章は平易に書かれているものの、著述内容は児童のみならず高校生以上大人までも対象にしても良いほどの充実ぶりと言えます。

ちなみに同時代の玉川大学出版部編集の百科事典に幼稚園児・小学生向けでは「玉川こども百科(既刊35巻続巻予定15巻)」というのがあり、高校生・大学生・教師向けでは「玉川学習大辞典(全32巻)」がありました。

天文・気象・海洋のなかで最も多くのページを割いているのは「天文」で、巻末の索引を含めて全484ページのうち227ページが天文の部です。

章立ては第1章の「天球と星座」から始まって「太陽系の天体」「星の引力と運動」「宇宙の涯まで」「天文機械の発達」「天文と人生」の全5章で、各ページともに図版を多用して理解の手助けが図られています。
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第1章天球と星座「星の神話」より ↑ 多くの図版を使って楽しく物語を進めています。
右ページ左上、「インドの竜星座の図」とありますが、正しくは「アラビアの竜星座図」では?
右下、「ペルセウスの像」、左は「馬人ケイロン」です。左ページ上、「海の神様ポセイドン」、その下は「海を荒らす化け物」の図。

各ページ3~4枚の図版を使って贅沢なページ作りをしていますが、なかには説明がなければ何を描いているのかよくわからないものもあり、載せる必要はないと思えるものさえあります。・・が、これはまあ編集者の余裕と言うか、読者の休息のためのもので、一見不必要な図・写真を見ることによって想像力を掻き立てる、という作用もありますから・・・。
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第1章天球と星座「天の地図」より ↑ 右ページの上の図は「極の近くでは太陽は低く動き、あまり強い日ざしはありません。」 の説明書き。

その下は「赤道近くでは太陽は高く動きます。」と書かれています。中の図は天球儀です。一番下の写真の説明は「僕は天の北極の近くの熊のクロちゃんのつもりです。」とあります。7つの星は北斗七星ですね。左ページは上から「経線緯線で仕切って見る星の動き」「星空を写真に写す。」「捜査用望遠鏡」です。
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第2章太陽系の天体「地球と月」より ↑ ここでは月旅行をするという設定のもと、月の運動や月面地形など説明しています。右ページ上の図は「地球にはこんな大きな火山孔はありません。火山孔の中にまた火山があります。」の説明。下には「エイッ、ポーン、こんなに飛びたければ月へ行きなさい」とあります。

左ページは「秋の夜の雲間」の写真で、月あかりに映える湖の景です。普通、天文の本で情緒的な写真を載せることはあまりないと思いますが、興味が深まることは確かです。このような写真は、天文の部でも気象の部でも海洋の部でも随所に見受けられます。編集のセンスが問われる難しいところでしょうが、違和感はありません。
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第3章星の引力と運動「天文と時刻」より ↑ この章あたりから次の章の変光星や星雲・星団を扱った「宇宙の涯まで」、その次の「天文機械の発達」は、やさしく丁寧に書かれているものの高度な内容も含まれていますので、あるいは興味を示さない小学生もいるかもわかりません。

右ページ上の図は、「天文時計の電磁石」、中は「振子時計の発明者ハイゲンス」、下は日時計です。左ページ中央は、目覚まし時計を分解したところ。その下の右は「クラウン型脱進器」、左は「リーフラー型脱進器」です。
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第5章天文機械の発達「天体望遠鏡」より ↑ この項と次の項の「東京天文台見学」「世界の天文台」は、あまり見ることのない貴重な、と言うか珍しい写真が満載です。

右ページ上、パロマ山天文台の200インチ反射望遠鏡の鏡、下の右は、「子午儀」、左は「パロマ山天文台のシュミット望遠鏡」です。左ページ上図は、「子午環」、左は「天頂儀」です。
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第5章天文機械の発達「東京天文台見学」より ↑ この項は非常に詳しく且つ丁寧に分かりやすく天文台の施設・設備・機能・観測目的が書かれています。見学者の視点で叙述されていますが、間違いなく天文台員の執筆でしょう。
この百科事典の発刊当時(昭和25年)の東京天文台の環境・設備状況が良くわかります。右ページ、「東京天文台の正門と本館」、その下は「26インチ赤道儀室」です。左ページは3枚とも「26インチ屈折望遠鏡」です。
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この項と次の項の「世界の天文台」は合わせて17ページに亘っての詳述ぶりです。右上より「報時室」「子午環室」「子午環の装置」、左は建設中の「東京天文台乗鞍観測所」です。

下は「世界の天文台」より、パリ天文台、ポツダム天文台、その下の図はパリ天文台の望遠鏡です。図の左上に椅子に座った観測者が描かれています。ポツダム天文台の写真には左隅に「アインシュタイン塔」が小さく写り込んでいます。
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 ↑ 左ページ上図より「ムードン天文台(フランス)」、「パロマ山200インチ反射望遠鏡室」

このほかに「ウイルソン山天文台」「リック天文台」「ヤーキス天文台」「グリニチ天文台」が写真付き解説、写真は載っていませんが、ケンブリッジ大学天文台、ベルゲドルフ天文台(ハンブルグ市)、ブレラ天文台(ミラノ市)、等々が取り上げられています・
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巻末見開きより「東京天文台(東京都三鷹市)」 「満Suzuki」のサインが見えます。鈴木満氏(1913-1975)は静岡県田方郡中狩野村(現・静岡県伊豆市)出身。

戦前、「太平洋画会」に所属し数々の賞を受賞。戦後、病を得て郷里の伊豆で療養するも昭和23年に再び上京、町田市に居住。この頃に療養のかたわら玉川大学出版部の図書の挿絵を多数手掛けています。

続きます。
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