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「四季の観測」「四季の天体観測」/中野繁著

画像の左側は昭和32年初版の「四季の観測」、右側は昭和40年初版の「四季の天体観測」です。
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書名はちょっと違いますが、双方とも「肉眼・双眼鏡・小望遠鏡で」がタイトルの前に付いています。著者・出版社は同じで中野繁著/誠文堂新光社です。

両書掲載の写真・図は、目次ページのウイルソン山天文台撮影のカニンガム彗星の写真をはじめとして、すべて同一の写真・図が使われています。

さらに、各星座の観望・観測対象を解説した文章も一字一句ほとんど違いは有りませんので、書名が異なるものの二つの書籍は同じものと言ってよいと思います。

しかし、双眼鏡・望遠鏡の資料編となっているページには若干の違いがありますので、この部分を少し記します。

先ず些細なことですが、「四季の観測」では、代表的な望遠鏡・双眼鏡の製造・販売メーカー10社のなかに「富士写真」と「東京光機KK」が入っていますが、「四季の天体観測」ではこの両社除かれ、替わって「日野金属産業KK」と「エイコーKK」が入っています。

ちなみに「四季の観測」の「富士写真」はプリズム双眼鏡一覧に掲載の43機種のうち23機種を占め、「東京光機KK」は7機種を占めています。双方ともに望遠鏡一覧には掲載がありません。

また、「四季の観測」の双眼鏡一覧にはメーカー別・口径別に販売価格も記載されていますが、さらに同書の望遠鏡一覧では屈折経緯台・屈折赤道儀・反射経緯台・反射赤道儀分けられて、口径別・各メーカーの機種別に販売価格が表示されています。

機種は具体的に名称を挙げて例えば、

五藤光学屈折経緯台 ダイアナ号 8500円 口径42ミリ
五藤光学屈折経緯台 コメット号 17000円 口径42ミリ
アストロ光学屈折経緯台 J1型 26000円 口径60ミリ
アストロ光学屈折赤道儀 R8型 23500円 口径42ミリ
日本精光76ミリ屈折赤道儀 70000円 口径76ミリ
関西光学工業 反射経緯台 口径80ミリ 24000円
西村製作所 反射経緯台 口径200ミリ 70000円
アストロ光学 反射赤道儀 口径150ミリ 200000円  などとなっています。望遠鏡は80種近く掲載されています。

このページ部分は「四季の天体観測」では、双眼鏡・屈折・反射に分けられているものの口径とf値別に大まかな価格帯が記されているのみです。「四季の天体観測」が発刊された昭和40年時点ではメーカー・機種ともに飛躍的に増大して、限られた紙面数では掲載の取捨選択が難しくなっていた、と想像します。
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さて、星座別の見どころ案内の部分ですが、1月の空、2月の空という具合にその月の夜半前に見やすい位置に来る星座を取り上げて、各星座ごとに肉眼の対象、双眼鏡の対象、口径5センチまでの対象、口径8センチの対象をそれぞれの見え方とともに紹介しています。

例えばオリオン座では、

肉眼対象 M42、ベテルギューズ
双眼鏡対象 M42の中のθ星(四重星)、3つ星とπ1~π4の星列
5cmまでの対象 θ、δ(二重星)、σ(四重星)、β(二重星)、ι(二重星)、M43、M78
8cmの対象 ζ(三重星)、ρ(二重星)、λ(二重星) という具合です。「四季の観測」「四季の天体観測」は、重星や連星が数多く紹介されていて、本書の特徴のひとつとなっています。
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本文に入る前のページは5ページに亘って星図が掲載されています。 ↑ 本書11ページ「冬の星座」より、ふたご座・オリオン座付近、文中で取り上げられた対象星には矢印が付けられています。
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画像の左側 ↑ 「四季の天体観測」41ページより、M3の導入星図と4cm20倍での見え方、その下はりょうけん、おおぐま、こぐまの二重星

画像の右側 「四季の観測」57ページより、かんむり、りゅう、ヘルクレスの二重星

本書にはたくさんの写真が掲載されていますが、その多くは1955年から56年に掛けて星野次郎氏によって撮影されたものです。

使用機材は29cm反射・13cm反射・ヘキサー500mm・クスナー300mm・ドグマー150mmで露出時間は対象物によって異なりますが、20分~40分~90分ほどです。なかには120分にも及ぶものもあり、当時の撮影環境を考えるとたいへんな作業であったと思います。

いずれも素晴らしい天体写真なのですが、残念なことに「四季の観測」に使われている紙の質の問題と恐らく印刷インクの問題でコントラストのハッキリしない天体写真・星野写真となっています。
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↑ 左側、「四季の観測」54ページのM13(29cm反射使用)とM13の5cm40倍のスケッチ 右側、「四季の天体観測」54ページの同じ写真です。「四季の天体観測」では紙質を上げて印刷ムラのないコントラストの良い写真になっていることがわかると思います。

本書113ページに星野次郎氏自作の観測所と収められている29cm反射(鏡面自作)の写真が載っていますが、ここでは「日本の天文台/誠文堂新光社」の112ヘージに掲載された同観測所と自作29cm反射の写真を転載します。 ↓ 29cm反射・f1900mmと同架の12cm・f2400mmF18のカセグレン、同じく同架されたクスナー300mmカメラ、人物は星野次郎氏
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↑ 左側、「四季の天体観測」より「シリウスとM41」 右側、「四季の観測」より「シリウスとM41」 1956年1月15日露出41分/星野次郎氏撮影

簡潔ながら味わいのある文章で綴られた「四季の観測」と「四季の天体観測」は、昭和30年代・40年代に星空に興味を抱いた方々にとって、思い出深い大切な星の本のひとつではないでしょうか。

各地の小学校・中学校の図書館・図書室に置いていた星の本といえば、多分これだったと思うのですが・・・。

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「四季の天体観測」本体とケース


肉眼・双眼鏡・小望遠鏡で四季の観測
昭和32年12月20日 第1版発行
著者 中野繁
発行者 小川誠一郎
発行所 誠文堂新光社
印刷 三友印刷KK
製本 関山製本社
装丁 菅野陽太郎
定価480円/地方定価485円
19×26.5cm/139ページ

肉眼・双眼鏡・小望遠鏡で四季の天体観測
昭和40年2月27日 第1版発行
昭和41年8月5日 第2版発行
著者 中野繁
発行者 小川誠一郎
発行所 誠文堂新光社
印刷 錦印刷
製本 関山製本社
装丁 星野重治
定価1000円
19×26.5cm/139ページ
巻末に月面の地形及び月面図付き
by iruka-boshi | 2014-08-04 21:45 | 星の本・資料 | Comments(0)