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東亜天文学史小報(1-100)/神田茂 (その2)

昭和20年8月の終戦前、最後の発行は7月22日の50号、次の51号はひと月以上開いて8月28日です。

昭和19年9月の1号以来、数日おきに発行し、ときには同じ日付で複数号発行している場合もあることを考えるとこれは異例なことで、やはり終戦直後の混乱のためだったのでしょうか。昭和20年3月も一ヶ月間発行無しですが、これは東京大空襲の影響か、はたまた個人的な理由なのか・・・。

(51)から(100)までの目次は次のとおり。

51 新日本の建設と科学史研究                   昭和20年8月28日
52 浅草天文台                          昭和20年8月28日
53 江戸時代の天文台                       昭和20年8月30日
54 暦作測量御用留                        昭和20年9月3日
55 春記に関する研究                       昭和20年9月4日
56 春記伝本の系統                        昭和20年9月4日
57 春記伝本一覧                         昭和20年9月4日
58 図書紹介(西内、谷秦山の学) 論文紹介(西内、春海学の研究) 浅草文庫 昭和20年9月30日
59 日本科学史学会、史学雑誌五六の一 論文紹介(清永嘉一、史記天官書恒星考
昭和20年10月8日
60 日本科学史学会講演題目                    昭和20年10月8日
61 科学史研究第九号                       昭和20年10月8日
62 宣明暦関係書誌(刊本の部) 井本進               昭和20年11月11日
63 同上(写本の部) 仝                      昭和20年11月11日
64 朝野北水伝、七曜推歩法、太田正雄教授             昭和20年11月11日
65 米納津隕石の落下記録                     昭和20年12月1日
66 「夢の代」 南部暦について                  昭和21年1月4日
67 元和六年仮名暦                        昭和21年1月5日
68 寛元五年具注暦                        昭和21年1月19日
69 小貝業徳関係の佛暦書                     昭和21年1月20日
70 普門律師著「新編須弥界暦書」 佛国暦象編校説         昭和21年1月20日
71 明治頒暦の種類                        昭和21年1月24日
72 明治以後に於ける編暦の沿革                  昭和21年1月28日
73 明治以後の編暦について                    昭和21年1月28日
74 続史愚抄天文部類記                      昭和21年1月29日
75 各地図書館の戦災概況                     昭和21年2月28日
76 大日本天文志                         昭和21年3月31日
77 普門円通律師略伝                       昭和21年4月6日
78 普門律師の著書                        昭和21年4月6日
79 応安六年及び宝徳三年具注暦 論文紹介(薮内、西洋天文学東漸) 帝国学士院日本科学史編纂事業 江戸時代天文記録の蒐集   昭和21年5月12日
80 金沢文庫現蔵の古暦                      昭和21年6月9日
81 地動儀図説、現存七曜暦追加 日本古暦研究所          昭和21年6月9日
82 西川如見著 教童暦談、和漢運気暦説、和漢運気指南後編 大矢眞一  昭和21年9月6日
83 教童暦談の目録(秋岡武次郎) 具注○(火に禾)暦            昭和21年10月25日
84 平山清次先生略歴                         昭和22年4月8日
85 平山清次先生の業績                        昭和22年4月8日
86 改暦七十周年に際して                      昭和22年4月8日
87 幕末天文方の墓所                         昭和22年4月9日
88 撫蘭仙の和漢対暦表                        昭和22年4月9日
89 金烏玉兎集(簠簋)の写本                      昭和22年5月23日
90 簠簋刊本の系統                          昭和22年5月23日
91 簠簋について                           昭和22年6月9日
92 簠簋関係刊本一覧                         昭和22年6月10日
93 太陰暦の閏月の置き方                       昭和22年7月3日
94 日本天文観測史                          昭和26年12月30日
95 日本の天文観測                          昭和26年12月30日
96 日本の彗星の記録                         昭和26年12月30日
97 日本の流星雨の記録                        昭和26年12月31日
98 日本の大流星及び隕石の記録                    昭和26年12月31日
99 「科学史研究」「天文総報」の天文学史文献             昭和26年12月31日
100 小川清彦氏の日本書紀暦日の研究                 昭和26年12月31日

(51)の「新日本ノ建設ト科学史研究」の冒頭、

『大東亜戦争ハ甚ダ遺憾ナ形ニ於テ終ヲ告ゲタガ、我々ハ新大日本帝国ノ建設発足ノタメニ非常ニ重大ナル時機ニ際会シ 国民ハ一日モ茫然タル事ナク、各自ノ職域ニ於テ新日本建設ニ向ツテ邁進スベキ時デアル。

我々自然科学ニ関係アルモノノ急務トシテハ青少年ニ対スル適切ナル科学教育、国民一般ヘノ科学思想ノ普及並ニ各種科学研究機関ノ充実等ノ問題ガアル。カクシテ一日モ早ク日本ヲ東亜ノ強力ナル科学国タラシメルベキデアル。(後略)』

(52)(53)は、いずれも図入りの記事ですので、見難いとは思いますが写真を載せます。

(52)は、明治33年11月中旬に某新聞(新聞紙名は書かれていない)に掲載された「天文が原」と題する文章の写しで、新聞掲載の挿絵とともに紹介されています。「天文が原」は某新聞に連載されていた「千草乃篭」という名の東京市内名所巡りのなかの一章です。
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『浅草区福富町二十六番地ヨリ同二十八番地ニ至ルノ間ハ旧幕府時代ニ天文台ヲ置キタルノ地ナリ(後略)』とあり、挿絵は「サルコ橋」から見た図とのことで浅草天文台の西南隅にあった橋が「サルコ橋」であろう、と記しています。
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(53)は、東北帝大林文庫所蔵の嘉永5年の天文台絵図の写しの紹介です。写真中央付近に天文方足立左内屋敷とあり、その右側は「天文方渋川助左衛門」、左上は「天文方山路弥左衛門」とあります。

(61)の「科学史研究第九号」は昭和20年5月発行の号の内容紹介です。朝鮮の尺度-佐々木忠義、科学史の材料としての俳諧-大矢眞一、明治初期に於ける物理学の状態-矢島祐利、文献明治初期刊行理化学書目録-編集部、晴雨考類版の所在について-神田茂、幕末に於ける太陽暦-大矢眞一、その他を紹介しています。

(88)の「撫蘭仙の和漢対暦表」は明治維新期に来日したデンマークのウィリアム・ブランセンが編集した和洋対暦表(1880年)の和文のものと欧文のものの紹介と解説です。

(89)~(92)の「簠簋(ほき)」については科学史研究第13号(昭和23年)に井本進氏の執筆で「簠簋内傳金烏玉兎集成立の研究」と題して「東亜天文学史小報」の簠簋報告に触れつつ詳しく述べられています。井本氏論文の冒頭は次のとおり。

『簠簋(ほき)は漢時代の祭器の名で、簠は円器、簋は方器で、天円地方に形どる。従ってまた天地の意ともなる。次に金烏は日、玉兎は月の異名である。即ちこの書名は、天地の内に秘かに傳えられたる暦書の意であろう。これはまた一説に簠簋の内に納めて傳えられたからの名であるともいう。(後略)』

昭和20年の終戦月よりほぼ順調に発行されていた「小報」ですが、昭和22年7月3日発行の(93)の後、4年数ヶ月の間発行が途切れています。

再開された昭和26年12月30日の(95)の冒頭には『本小報ハ昭和二十二年七月以来陽画感光紙入手難ノタメ久シク中絶シテイタガ今回入手シウルヨウニナツタ機会ニ継続スルコトトスル』とあり、

この日、(94)(95)(96)の3号を発行し、翌日(97)~(100)の4号発行を持って「小報」を終了しています。100号の発行日が12月31日でちょうど良い区切りと思ったのでしょうか。せっかく陽画感光紙が手に入ったというのに・・・。


「東亜天文学史小報(1-100)」は、25.5×19cmの片面手書き青焼きで、表紙1枚、目次2枚、本文100枚綴りとなっています。 
by iruka-boshi | 2012-06-30 15:20 | 星の本・資料 | Comments(0)