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植物の星座(その2)

イギリスの天文学者エドマンド・ハレーが創った「チャールズの樫の木座」にはその設定にあたって次のような逸話が残っています。

以下、その部分を「星座の文化史/原恵著/玉川大学出版部/1982年」より転記します。

「チャールズ二世の父、チャールズ一世は、国会と衝突し、国民の敵として一六四九年処刑され、英国はピューリタンのクロムウェルを指導者として王制を廃して共和制を布いた。チャールズ一世の次男チャールズは、父の死後王を称し、クロムウェル派と争ったが、一六五一年九月三日にウースターで戦って敗れ、追撃をうけて生命が危うくなったとき、大きな樫の木にまる一昼夜かくれて一命をながらえた。」

のちにチャールズは帰国して王位につき、イングランド国王チャールズ二世となり、1675年にロンドン郊外グリニジに天文台を設立して初代台長にジョン・フラムスチードを任命します。

フラムスチードは、亡くなる1719年まで台長を務め、翌1720年からはエドマンド・ハレーが二代目台長に就任することになるのですが、その台長になる44年まえ、オックスフォード大学を1676年に卒業したばかりのハレーは、南大西洋のセントヘレナ島を訪れ、この地で南天の恒星の位置観測を行っています。

1679年にその結果を『南天星表』として発表するさい、この観測事業の支援者であった英国王室を讃えて「チャールズの樫の木座」を設定した、ということです。

また、ハレーは、りょうけん座のα星に「チャールズの心臓(コル・カロリ)」の名を与えていることでも知られています。英王室はハレーにとって良き理解者だったのだろうと想像します。
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ヘヴェリウス星図のアルゴ座(アルゴ船)の脇に創られた「チャールズの樫の木座」

さて、ほかに植物の星座はないものか、と思っているところに浮かんできたのは中国の古代星座(星宿)のこと。

宮廷内の建造物の名や文官や武官の職名、武器の名称、農業のための生産用具の名や農産物の名、動物、山川沼池、国名・地名、対人行為に関する言葉、果ては、三種類の幽霊の名称の星座から便所の星座まで何でもある。

便所には神がいるという俗信は中国のほか日本にもあるし、他の国にもあるのですんなりと納得。生産用具にしても動物にしても神のよりしろであり、精霊の宿るものだ。

地上のものをそっくり天に移して星宿名にしているので、植物も必ずあるもの、と思って探してみるとあっさりと「柳宿」に行きついた。

植物の星宿はこれのみ。柳も精霊の宿る神木として天上界に座している。以下、「中国の星座の歴史/大崎正次著/雄山閣/1987年」からの転記。

「索莫たる河北の黄土地帯で、他の植物に先んじて緑の芽を吹き出す柳は、しなやかでしかも強い性質から、邪悪を追いはらう力をもつと信じられた。

「斉民要術」に「正月の元旦、柳の枝をとって戸の上におけば、百鬼も家に入らず」とあり、「春秋緯」に辟邪の意味から墓の傍に植えたとある。(中略)

漢代以後、長安の人が長途の旅に出る人を覇橋のたもとまで送り、そこの柳の枝を折りとって旅のはなむけとして贈る風習があったが、これも柳の枝がしなやかでよく曲り、曲げてもまた元に戻ることから、旅から無事に帰ることを心から願ったことを表したものであろう(「三輔黄図」橋)/(以下略)」
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「中国の星座の歴史」より、二十八宿のうち「柳宿」/右に「小犬座」、左に「獅子座」、上に「かに座」のプレセペ

非常に多くの星座を持つ中国の星空ですが、植物の星座は「柳宿」のみです。やはり植物は星座になりにくいのでしょうね。
by iruka-boshi | 2011-05-26 00:18 | 星の本・資料/星空 | Comments(0)